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レビュー

2025.12.09

【PMF2025】7/13(⽇)PMFオーケストラ演奏会レビュー

写真:演奏の様子

PMFオーケストラ公開リハーサルは
熱気あふれる学びの場

7月中旬、気持ちの良い快晴が続く中、札幌コンサートホール Kitaraで開催されたPMFオーケストラ公開リハーサルは、入場時から行列ができるほどの盛況ぶりで、早くも熱気に包まれていた。

曲目はシベリウスのヴァイオリン協奏曲。指揮はカリーナ・カネラキス、ソリストは五明佳廉。翌日から2公演のプログラムはこのシベリウスとマーラーの交響曲第1番「巨人」だが、この協奏曲のまとまったリハーサルはこの日が最初とのこと。

シベリウスにはPMF教授陣は加わらず、アカデミー生のみでの演奏。世界中から選抜され、マーラーなどの難しいフレーズは難なくこなせる精鋭たちのオケが、協奏曲では最初は噛み合わない。各パートの譜面はシンプルでも、ソロとの絡みやオケ内の連携を理解しないと曲にならないのが、協奏曲のオーケストラ。その難しさに直面するアカデミー生たちと、それを導くカネラキスの奮闘ぶりがとても興味深かった。例えば、冒頭のヴァイオリンセクションの凍てつくような響きも、実は簡単には実現できず、ソリストの五明まで弾き方の指導に加わる。何気なく聴いている場面が、いかに細やかな気配りの積み重ねで成り立っているのか。それを実感できる貴重な機会だった。

シベリウス本公演は
完成度の高い清らかな熱演

本公演は12日に苫小牧、13日に札幌で開催された。札幌公演はとにかくホールの響きがすばらしく、この空間で聴くシベリウスは格別。オーケストラは11日のリハーサルとはまるで別団体のような完成度で、リハーサル後の楽員の努力が感じられて微笑ましい。五明のソロは明るく艶やかで、力強さとメリハリが際立ち、オーケストラも含めて清らかさと情熱が見事に融合した、出色のシベリウスだった。

写真:演奏の様子

マーラー「巨人」で
最高峰の教授陣が築く盤石の土台

メインのマーラー「巨人」では、ウィーンとベルリンのPMF教授陣が各パートのトップに座り、ずらり居並ぶ様は壮観そのもの。中でもコンサートマスターは元ウィーン・フィルのライナー・キュッヒル、フルートは元ベルリン・フィルのアンドレアス・ブラウ。20世紀後半の両楽団の顔がそろい、胸の熱くなる思い。感慨ばかりではなく、彼らのような世界最高楽団の首席奏者たちが並ぶと、盤石の土台と太い柱ができて、アカデミー生たちの雰囲気が歴然と変わる。第3楽章のコントラバス・ソロはトップサイドのアカデミー生が担当したが、他の多くのソロは教授陣が演奏。特にオーボエのジョナサン・ケリーの音の伸びかたや、ブラウのフルートの清らかさは、まさに別格のものだった。

写真:演奏の様子

カネラキスの指揮が導くみずみずしい「巨人」

PMFアカデミー出身のカネラキスは、ベテランと若者によるオーケストラをのびのびとドライブ。彼女はこの前週には同曲で東京都交響楽団と共演し、そのときは清新な魅力と “若さ”(指揮者としての)の両面が出たきらいはあったが、PMFでは楽団と指揮者と作品それぞれの“若々しさ”がマッチ。要所の名人たちの巧みなコントロールも加わり、みずみずしさと緻密さが融合した、すばらしい「巨人」になった。会場は大歓声に包まれ、指笛も鳴り響く国際音楽祭ならではの華やかな雰囲気の中、心地よいマチネとなった。

【PMF2025映像】マーラー:交響曲 第1番 二長調「巨人」
※公開期間:2026/9/20まで

著者

音楽ライター

林 昌英

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。

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