◆ベートーヴェン：
交響曲 第４番 変ロ長調 作品60
　「2人の北欧の巨人に挟まれた、ギリシャの乙女」。シューマンは、こう例えたと言う。確かに、第3番《英雄》と第5番《運命》という強烈な個性を放つ2曲に囲まれたこの交響曲は、どこか可憐な印象を与える。ベートーヴェンが35歳だった1806年春頃に着手され、翌年3月に、彼の後援者だったロプコヴィッツ侯爵邸で初演。洗練された様式と魅力的な旋律、繊細な和声遣いを併立させた当曲は、紛れもない佳品だ。
　ppで奏される変ロ音で、幻想的に始まる第1楽章。何かが胎動するような序奏部の動きは、やがて大きなうねりに。主部へとなだれ込み、エネルギーに満ちた第1主題と、穏やかな会話のような第2主題が対比を成す。第2楽章では、単なる下降・上昇音階を、美しい主題へと仕立てる楽聖の手腕が秀逸。ダイナミックなスケルツォの第3楽章には、ほのぼのした対話のようなトリオが2度、挿入される。最終楽章もソナタ形式。無窮動的な第1主題と、軽やかに舞う第2主題が対置され、スリリングに進行する。

◆シューマン：
交響曲 第2番 ハ長調 作品61
　「実際のところ、この(曲を書いた)時に明白に作用し、病気に立ち向かうのを助けてくれたのは、精神が抵抗する力だった」。シューマンは、こう吐露している。彼は35歳となった1845年、精神疾患が急激に悪化。当作は、寛解の兆しが見えた同年12月半ばから当曲の作曲を始めたが、体調が再び悪化して作業は遅れ、翌1846年10月になって完成した。そして、友人のメンデルスゾーンの指揮により、11月16日にライプツィヒで初演された。
　第1楽章は、全曲を支配する動機を金管が奏しつつ開始。序奏は次第に生気を増し、主部に入ると、歯切れの良い第1主題が中心に。スケルツォの第2楽章は、16分音符で目まぐるしく動く主部に、2つの色彩の異なるトリオが挟み込まれる。ハ短調に転じる第3楽章は、荘厳な主題を軸とするロンド風の構成。最終楽章の前半では、ファンファーレ風の第1主題を軸に、第3楽章に由来する第2主題を絡め、ソナタ形式で進む。そして後半では、全く新たな主題が登場し、長大なコーダを形創る。

（寺西　肇）