気宇壮大にして精妙。圧巻のスケール感と神秘的な情趣をあわせもつ孤高のシンフォニーだ。静寂も主役を演じることを最初に述べておこう。
8人の声楽ソリスト、2群の混声合唱、児童合唱、4管編成の管弦楽を要するグスタフ・マーラー(1860〜1911)の交響曲第8番は、その大編成ゆえに「千人の交響曲」なるニックネームで愛されている。
この「桁違い」の規模を誇るシンフォニーは1910年9月12日、各国のVIPが勢揃いしたミュンヘン博覧会の新音楽祝祭ホールで初演された。新ウィーン・ジャーナル紙や当日のプログラム冊子によれば、オーケストラ約170人、ウィーンとライプツィヒからやってきたコーラス500人弱、児童合唱約350人…がステージに陣取っていたようである。
ニックネームを考案したのは、リハーサルの段取りをめぐってかなり神経質になっていたマーラーと頻繁に手紙を交わしつつ、周到かつ大胆に初演を準備したミュンヘンの敏腕興行師エミール・グートマンとされる。
曲は、第1部、ラテン語による聖霊降臨の讃歌「来たれ、創造主たる聖霊よ」と、第2部、ゲーテ(1749〜1832)の「ファウスト」最終場面から成る。
オラトリオにも通じる長篇の第2部は、不死となったファウストが、上空を漂う天使たちによって抱えられ、栄光の聖母の恩寵(おんちょう)によって救済される場面を描く。
マーラーがかねてから関心を抱いていた「ファウスト」最終章だ。マーラーは、聖なる隠者の場面と栄光の聖母の出現を伴った「ファウスト」のテキストを数節削除し、一か所順番を入れ替えただけで、あとはそのまま用いている。
ソリストはひとりをのぞいて第1部から活躍。第2部では、恍惚の神父(バリトン)、深淵の神父(バス)、マリアを崇(あが)める博士(テノール)、悔悟(かいご)する女(かつてグレートヒェンと呼ばれた女 ソプラノⅡ)、罪深き女(ソプラノⅠ)、サマリアの女(アルトⅠ)、エジプトのマリア(アルトⅡ)、栄光の聖母(ソプラノⅢ)と役柄が与えられる。
この第2部の歌詞はドイツ語、1500小節を超える長篇で、最後は神秘の合唱「すべて移ろいゆくものはあくまで比喩(たとえ)のようなものに過ぎない。〜永遠に女性的なるものが、私たちを引き上げる」(三ヶ尻正氏の訳から抜粋)。第2部は一時間弱を要する。
神秘の合唱に抱かれ、高揚するオーケストラに胸熱くするときが来た。オーケストラ、ソリスト、すべてのコーラス、金管のバンダ(オーケストラ本体とは別にトランペット4、トロンボーン3が配される)が醸す音色、視覚的効果も満場の喜びとなる。
PMFの歴史を彩った名匠クリストフ・エッシェンバッハの十八番を聴く。
この夏、マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」がPMFのステージに響く。
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