PMF Founded by Leonard BernsteinPMF MUSIC PARTNER 2021年11月号 vol. 82
 
ミュージック・パートナー年末特別企画/東日本大震災から10年 コロナ禍から2年/音の匠・伊福部達さんが語る/心と体に届く福祉工学の知恵

光陰矢の如し。今年も残りわずかとなりました。7月に2年ぶりの再開を果たしたPMF2021の感動、TOKYO2020の感動は記憶に新しいところです。また、2021年は未曽有の被害をもたらした東日本大震災から10年、新型コロナウイルス感染症の流行による災難(コロナ禍)から2年という年でもあります。
11月号と12月号では「心と体に届く福祉工学の知恵」と題し、工学博士で、緊急地震速報チャイムの作曲者としても有名な伊福部達さんによる特別エッセイをお届けします。
今、私たちは災害、地球温暖化、時疫、少子高齢化、パラダイムシフトなど想定外の出来事が次々と起こる時代を生きています。
この年末は命や人生について考えながら、伊福部先生の「音の福祉工学」という分野から、音に関する知識を深め、予測不能な2022年を音楽とともに明るく元気に過ごす知恵を見つけましょう!

第1回/命を守る音〜緊急地震速報チャイム誕生秘話〜 伊福部 達

「チャラン、チャラン」というチャイムとその後の地震を予報するアナウンスは日本に住んでいる誰もが耳にした音であろう。チャイムには、震度5弱を超える地震(P波)のあと、ユラユラとした大きなS波が来るので警戒せよ、というメッセージが込められている。3.11の東日本大震災で鳴り響いてから10年が経った。この間、チャイムを聞いて身構える人、聞き流す人、耳をふさぐ人など、感じ方や行動は人によって変わってきた。しかし、NHKの報告によると、チャイムを聞いた犬や猫などのペットでいまだに逃げ惑うのがいるという。一方、この地震チャイムで直ぐに逃げて命が救われた人は、2〜3千人はいるのではという。2006年の暮れ、NHKから使者が来て地震チャイムを作れそうな人を紹介してほしいと相談を受けた。その時は「命を守る音」にするという大仰な責任感はなかったが、今は助かった人がいると聞くとホッとする。

地震チャイムの5つの条件は「音の福祉工学」のエッセンス

その使者が来てから紆余曲折があったが、結局、音楽家でもない私が半年以内という短期間でチャイムを作る羽目に陥った。そこで、長年にわたる聴覚研究と福祉工学の立場から、地震チャイムには①あまり不安にさせずに、②行動を促し、③騒音の中でも、④難聴者でも聞き取りやすく、そして⑤今まで聞いたことがない音という5つの条件が必要であると考えた。音楽のメロディを参考にするのが早道であるが、誰かの曲を拝借すると著作権に引っ掛かる。また、昔から多くの作曲家が無数のメロディを作っているし、駅のチャイムやゲーム機から流れる音も無数にある。さらに苦労して作っても、既にある音と同じであることが分かれば、盗作の疑いも逃れられない。実をいうと、地震チャイムが鳴るたびに、同じ音が見つかるのではと、しばらくは不安であった。

Tips/命を守る行動を促すため、地震チャイムには「音の福祉工学」を応用した5つの条件とともに、次のような音楽理論が用いられています。/駆け上がりアルペジオ:人間の聴覚は上昇する音に注意が喚起されるようになっています。/トライトーン:バロック以前は「音楽の悪魔」と呼ばれていた不協和音!/オルタードテンション、半音の平行移動:チャイムにさらなる緊張(テンション)が走ります…

「今まで聞いたことがない音」のインスピレーションはどこから?

結果から言うと、映画ゴジラの音楽を作ったことで知られる作曲家の叔父・伊福部昭の交響曲からインスピレーションを得た。叔父はNHKからチャイム制作の依頼があった年と同じ2006年の2月に他界していたが、著作権()も含めて色々なことが解決すると直感した。また、チャイムを私物化するような気もしたが、叔父の曲を活かせばオマージュ(作品への敬意)になると考えた。叔父が北海道にいた頃に作った曲とその時の逸話は幼い頃から聴かされていた。少年時代はアイヌの子供が多い音更の小学校に通っていた。音更村長であった祖父は和人にもアイヌの子にも分け隔てることなく接し、重要なアイヌの儀式には叔父をつれて行った。儀式が盛り上がると皆が即興で歌い踊るのを見聞きして、叔父は強く心が動かされたという。それが作曲を始める動機の一つになったと聞いている。

※著作物の保護期間は著作者の死後50年(2018年12月の著作権法の改正で死後70年に延長)

北海道のアイヌ音楽と地震チャイムの和音

アイヌ民族は文字を持たなかったので、色々な儀式を通して歴史や文化を歌や踊りで子孫に伝えていた。その中でも興に乗った時に、古老が立ち上がり「今の気持ちを歌に託せば」と言って踊りながら歌う「タプカーラ」と呼ばれるのがある。叔父は、それをモチーフにした「シンフォニア・タプカーラ」という交響曲を作曲している。あまりにも土俗的なリズムとメロディであったことから評論家からは当初は酷評を得たそうである。私はアイヌの聖地とも言われる平取町の二風谷で生まれたこともあり、アイヌ音楽は知らないうちに耳にしていたためか、タプカーラの曲は素直に心に入ってきた。
その第3楽章は、さあ立って踊ろうと強く働きかけるような和音とリズムで始まる。私は、出だし小節の和音やリズムをチャイムに活かすことにし、NHKの電子楽器奏者の協力のもとで、まずは低音から高音に移る5連音のアルペジオを作り、それを2回繰り返した。このチャイムの原型を基にアレンジした5つの候補音を、子供や高齢の難聴者など約20名の協力を得て色々な角度から評価してもらい、騒音下でも難聴者でも聞きやすい音を最終的なチャイムとした。完成から4年後、あの3.11の地震が起きた。2016年には九州の熊本を中心として、2018年には北海道の胆振地方が震源地となって大地震が続き、チャイムは全国に隈なく鳴り渡ることになったのである。

アイヌ舞踊「タブカーラ」(父・伊福部宗夫「沙流アイヌの熊祭り」みやま書房、1969年より)と緊急地震速報チャイムの音譜(著者による)

資料提供:伊福部達さん(チャイムの楽譜はNHKが使っているもの)

「優れた音楽は、民族の特殊性を通過してはじめて、普遍性に到達する」というのは叔父の信条であったので、チャイムにもそれを込めたいと思った。さらに、太古の時代に闊歩したゴジラのような恐竜にも訴える力があればとも思った。実際、犬や猫たちもチャイムを聞いて逃げ回るというのだから、動物の脳の深部に訴える普遍的なものを内に秘めているのかもしれない。私は、真に残るテクノロジーも、人の脳の深部に潜む能力や感性に違和感なくマッチするものではないのか、と考えて研究を続けてきた。次回は、この信条を実現しようと長年にわたり進めてきた「音の福祉工学」の話をしたい。

写真:伊福部 達

著者 伊福部 達(いふくべ・とおる)

工学博士
東京大学 先端科学技術研究センター研究顧問
北海道大学名誉教授、東京大学名誉教授
株式会社シザナック副社長

1971年 北海道大学 工学研究科修士課程(電子工学)修了/1989年 北海道大学 応用電気研究所(医用電子工学部門)教授/2002年 東京大学 先端科学技術研究センター(バリアフリー分野)教授/2011年 東京大学 高齢社会総合研究機構 特任研究員、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)S-イノベ「高齢社会を豊かにする科学技術システムの創成」代表、北海道科学大学教授(2015〜2017年度)など
緊急地震速報チャイムは、その音色もさることながら、誕生秘話もドラマチックでしたね。今回のエッセイで、伊福部先生、作曲家の伊福部昭さん、地震チャイムが北海道とつながっていることを知り、大変うれしく、道民として誇りに思いました。PMFが北海道の豊かな風土に根差した道民の宝物として「北海道遺産」に認定されたのは2018年11月。深夜に地震チャイムが鳴り響いた胆振東部地震から約2か月後のことです。そして、何と伊福部先生はPMF1990(第1回)に来場されて、札幌市民会館でバーンスタイン指揮のシューマン2番を聴いたそうです。(うらやましい…)先生、とても興味深いお話ありがとうございました。次回も楽しみにしております!
 

向上心が響きあい、PMFの感動が生まれる!
PMF2022 アカデミー・オーディション

PMF2022 アカデミー・オーディションのポスター

感動が主役のPMF。いよいよ12月1日から2年ぶりとなるアカデミー・オーディションの受付がスタートします。
アカデミーとは「教育部門を指す言葉」で「オーディションで選ばれた若手音楽家」のこと。コロナ禍を経て再開する今回のオーディションは「オーケストラ・アカデミー」の募集となります。
平均倍率が10倍を超える難関を突破し、世界中から夏の札幌に集まるアカデミー生で結成するのがPMFオーケストラ。彼らは、創設者レナード・バーンスタインの夢と情熱、国際教育音楽祭の主旋律“音楽と平和”を体現するPMFの感動の源であり、次代のクラシック音楽界を担うエリートなのです。
“音楽の夏”に向けてPMF2022が始動します。どうぞご期待ください!

PMF2022 オーケストラ・アカデミー・オーディション

募集形式

レコーディング
(専用サイト“Acceptd”で受付)

受付期間

2021年12月1日(水)から
2022年2月16日(水)まで

課題曲などの詳細は12月1日に公式ウェブサイトで発表します。

オーディション(要項・課題曲・よくある質問)

皆様のおかげでPMFは「税額控除対象法人」に
PMFオフィシャル・サポート(個人寄付)

オフィシャル・サポートは「PMFで学ぶ若い音楽家のために、クラシック音楽の未来のために」個人の皆様から1口1,000円で国際教育音楽祭PMFをご支援いただく公式の個人寄付制度です。
この2年、コロナ禍にあっても、多くの方が“オフィサポ”を通じてPMFの苦しい運営を助けてくださいました。この場をお借りして心から感謝と御礼を申し上げます。

1,000円の大きな力!PMFの音楽教育と感動に直結するPMFオフィシャル・サポート(個人寄付)の状況/PMFオフィシャル・サポートコロナ禍(2020〜2021)11,014,145円※フレンズ会費からのご寄付(1,593,000円)とチケット代からのご寄付(1,013,145円)を含みます。/PMFオフィシャル・サポート累積額(2013〜2021)24,831,145円
ご報告&お願い

当財団は令和3年(2021年)10月1日に内閣府(内閣総理大臣)が証する「税額控除対象法人」となりました。個人寄付者の皆様によるご支援の実績が、今回の認定につながりました。本当にありがとうございます。
今回のオーディションに合格し、来夏のPMFで学ぶアカデミー生のために使わせていただく「PMF2022オフィシャル・サポート」も随時お受けいたします。詳細は下記のリンクボタンから公式ウェブサイトの専用ページをご覧ください。
10月1日以降の個人寄付は税額控除(寄付金特別控除)の対象です。今後もPMFにあたたかいご支援を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

「寄付金受領証明書」は確定申告の1ヵ月前までに郵送いたします。

PMFオフィシャル・サポート(個人寄付)
 
現場の頻出語をランダムでご紹介!PMFのあいうえお
ふ:振る

オーケストラなどを指揮すること。

クラシック音楽業界では指揮者が指揮することを「振る」と言う。

指揮者のタイトルは、オーケストラでの役割によって芸術監督や音楽監督、首席指揮者、客演指揮者、シェフ・ド・オーケストラ(レストランのキッチンで言うところの「グラン・シェフ」にあたる)など様々。PMF2001に出演した佐渡裕さんは「バーンスタイン・メモリアル・コンダクター」という名称で登場した。

『マエストロが東京公演で振ったショスタコ(ーヴィチ)の8番、心にしみたね』
『PMFオーケストラの演奏は、まさに Harmony of Peace(平和の響き)だと思いました』

また、「振る」の関連語には「ひと振り」「弾き振り」という言葉が存在する。

『本日はありがとうございました。ところで、この指揮者は“ひと振り”いか程でしょうか?』
『1公演のフィー(報酬)はこちらに記載のとおりです』
『◎△$♪×¥●&%♯?!』

ピアニストやヴァイオリニストが、オケやチェンバー(室内楽)を指揮する時は「弾き振り」と言う。

『弾き振りといえばバーンスタイン!ラヴェルのピアコン(ピアノ協奏曲)は神業です』
『YouTubeチェックしました。彼の弾き振りは華麗の一言。ピアノ上手い、オケずれない、カッコいい!』

師匠の指揮者のもとで学ぶアシスタントコンダクターが、マエストロのリハーサルや本番前に(修業を兼ねて)指揮することを「下(した)振り」と表現することがある。

読者プレゼント!2022年PMFオリジナル卓上カレンダー

バーンスタイン、ティルソン・トーマス、エッシェンバッハ、ムーティ、ゲルギエフほかPMF歴代指揮者をフィーチャーした初企画の「2022年 PMFオリジナル卓上カレンダー」を抽選で20名様にプレゼントします。新年をマエストロたちの雄姿とともに過ごしませんか?

お知らせ

PMF2021フレンズ(賛助会員)の皆様には、12月上旬に発送するDMに会員特典として「2022年 PMFオリジナル卓上カレンダー」を同封いたします。

読者プレゼント

musicpartner@pmf.jp にメールでご応募ください。

締め切り 2021年12月15日(水)まで

件名には「カレンダー希望」、本文には「お名前」「郵便番号」「ご住所(プレセントの送付先)」「電話番号」「ミュージック・パートナー(月刊メール)のご感想」をお書きください。

※当選者の発表はプレゼントの発送をもって代えさせていただきます。
※ご応募いただいた方の個人情報は、抽選および発送以外には使用しません。
※ご感想は編集のうえ匿名(イニシャル等)で紹介する場合があります。

「PMFのあいうえお」で取り上げてほしい言葉のリクエストもお待ちしています!

読者の皆様へ

ミュージック・パートナーのご感想をお寄せください。ご感想や読者プレゼントはメール(musicpartner@pmf.jp)まで

イラスト:手紙とコーヒー
 
本メールはご登録いただいた方と関係者に配信しています。
●バックナンバーは https://www.pmf.or.jp/jp/mail/ をご覧ください。
●「PMFオンラインサービス」にご登録された方は https://yyk1.ka-ruku.com/pmf-s/ からログインのうえ、登録内容の変更やメールの配信停止を設定できます。
●お問い合わせ・ご意見、関係者の方で配信停止を希望される場合は musicpartner@pmf.jp までお知らせください。

公益財団法人 パシフィック・ミュージック・フェスティバル組織委員会

[Webサイト] https://www.pmf.or.jp/
〒060-0052 北海道札幌市中央区南2条東1丁目1-14 住友生命札幌中央ビル1階
TEL : 011-242-2211  FAX : 011-242-1687
(c) PACIFIC MUSIC FESTIVAL ORGANIZING COMMITTEE all rights reserved.※本メール内容の無断転載を禁じます。
PMF Facebook PMF公式ページ Twitter PMF公式ページ PMF公式 Instagram