PMF Founded by Leonard BernsteinPMF MUSIC PARTNER 2020年12月号 vol. 71
 
文芸研究家&墓マイラー カジポン・マルコ・残月さん再登場!〜没後230周年に先だって〜墓マイラーのモーツァルト挽歌

先月、初のゲストとしてミュージック・パートナーに登場したカジポン・マルコ・残月さん。ベートーヴェンはカジポンさんの最愛の人だけあって、その情熱的で、面白くて、優しいエッセイは大好評でした。
ところで、去る12月5日はモーツァルトの命日。来たる2021年は彼の没後230周年となります。師走は“誕生と死去”で古典を代表する二大作曲家の人生が重なるシーズンです。
夭折しなければベートーヴェンの師匠になっていたモーツァルト。35年の短くも華やかな人生を送ったクラシック音楽界の天才は、驚愕の墓エピソードを持つ偉人でもありました。
前回の「ベートーヴェン賛歌」に続き、今回は「モーツァルト挽歌」と題して、天才音楽家の生涯を見つめる“超ロング”な書き下ろしエッセイをお届けします。続くコーナーではオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の逸話もありますので、どうぞお楽しみに。
熱いアンコールに応えて、文芸研究家で墓マイラーのカジポン・マルコ・残月さん、再登場です!

〜没後230周年に先だって〜墓マイラーのモーツァルト挽歌

天才は5歳から作曲家・ピアニストとして活躍

2021年はモーツァルトの没後230周年。モーツァルトは人生の最後がとても寂しかっただけに、心を込めて追悼したい。彼が活躍した18世紀は、音楽家は地位が低く尊重されていなかった。貴族のサロン演奏会などで常に新曲を要求されたにもかかわらず、演奏はいつもBGM扱い。貴族たちはお茶とおしゃべりに夢中で、まともに聞いていなかった。作曲家の苦悩や人間性を音楽に反映する土壌はなく、求められたのはただただ心地よい音楽、親しみやすく聞きやすい音楽だった。モーツァルトはそれが我慢ならず、聴衆にもっとハイレベルな要求をした。『聴き手が何も分からないか、分かろうとしないか、僕の弾くものに共感できないような連中なら、僕はまったく喜びをなくしてしまう』(父への手紙)。その結果、晩年は貧困にあえぐことになった。

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就活失敗、母の死、失恋…モーツァルトの“苦節十年”

17歳の夏に就職先を求めてウィーンに旅行するも、ウィーンにはグルックやサリエリなど有能な作曲家がひしめき、駆け出しの青年作曲家が就ける職はなかった。失意の帰郷となったが、大きな音楽的収穫があった。当時41歳のハイドンが、社交的な音楽よりも内面表現を重視した作品を打ち出し始め、若きモーツァルトはこれに影響を受けて作風が変化する。交響曲に初めて陰のある短調を使い、通常の倍となる4本のホルンを使用するなど、ドラマチックな「交響曲第25番」を完成させた。他にもピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲にも意欲的な作品が生まれていった。

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写真:モーツァルトにまつわる場所
1.ザルツブルクのモーツァルトの生家。4階に17歳まで住んでいた/2.父レオポルト(右)、妻コンスタンツェ(中央)など近親者の墓(ザルツブルク/聖セバスチャン教会)/3.姉ナンネルはコンスタンツェと仲が悪く、別の教会墓地に眠る(ザルツブルク/ザンクト・ペーター教会)/4.ウィーンの王宮広場にあるイケメン・モーツァルト像/5.寄せ集めの廃材で造られたモーツァルトの墓。「W. A. MOZART」と刻まれている(ザンクト・マルクス墓地)

絶頂期の到来。楽都ウィーンで大ブレイク!

1784年(28歳)、ウィーンに出て3年目。モーツァルトは人生の絶頂期にあった。ウィーンいちの人気ピアニスト兼作曲家として楽壇の寵児となり、午前中は生徒のピアノ指導、夜は演奏会、その間に次々と新作を書いた。収入も増えてウィーンの一等地に転居している。初めての予約演奏会(私的音楽会)で披露した「ピアノ協奏曲第14番」は大喝采となり、父への手紙に『会場はあふれんばかりに聴衆がいたし、いたるところ、この音楽会を誉める声で持ちきりです』と報告している。この1年だけで6曲のピアノ協奏曲を書き、いずれも芸術的な欲求が反映されたものとなった。中でも「第17番」について作曲家メシアン(1908-1992)は『モーツァルトが書いた中で最も美しく、変化とコントラストに富んでいる。第2楽章のアンダンテだけで、彼の名を不滅にするに十分である』と絶賛。「第18番」のウィーン初演を聴いた父レオポルトは手紙で『各楽器の多様な音色の変化に、満足のあまり涙ぐんでしまった。演奏後、皇帝(ヨーゼフ2世)は「ブラボー!モーツァルト!」と叫ばれた』と報告している。

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人生は残り5年。天才モーツァルトに訪れた光と影

その後も30歳でオペラ「フィガロの結婚」、31歳で「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」を書くなど、作曲技術の粋を凝らした力作を発表していくが、だんだん人気に陰りが見えてくる。個性や芸術性を込めたモーツァルトの音楽は『難解』『とても疲れる』と思われ、かつては予約者でいっぱいだった演奏会が、一人しかいない日もあった。作曲の注文は減り、ピアノの生徒も激減した。モーツァルト夫妻には浪費癖もあり、演奏旅行でもらった贈り物は次々に質入れされた。モーツァルトは“分かりにくい音楽は必要とされない”という壁にぶつかり苦しんだ。

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「レクイエム」作曲中に絶命。お墓は廃材のリサイクル!

1791年、モーツァルト最後の年。夏頃、オペラ「魔笛」の作曲などで過労から健康を損ねていたモーツァルトのもとに、灰色の服をまとった謎の男が訪れて「レクイエム」の作曲を依頼した。男の正体はある音楽愛好家の貴族の使者だった。7月に第六子フランツが生まれる。夫婦は6人の子を授かったが、成年に達したのは第二子のカールとフランツだけだ。秋に「魔笛」が初演され、7歳のカールがオペラに興奮してはしゃいだ。宮廷楽長サリエリが観劇に訪れ、モーツァルトは妻に手紙を書く。『サリエリは心を込めて聴いてくれ、序曲から最後の合唱までブラボーやベロー(美しい)を言わない曲はなかった』。この手紙には『僕は家にいるのが一番好きだ』と記しており、妻への最後の恋文となった。

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写真:モーツァルトにまつわる場所
6.ウィーン中央墓地に移された旧墓石(墓碑だけを移設)。ブロンズ女性が持っているのはレクイエムの楽譜/7.ウィーンのケッヘルの墓。彼がモーツァルトの膨大な楽曲を年代順に整理してくれた(626曲)/8.チェコにある末子フランツの墓。“モーツァルト2世”を名乗って作曲やピアノ演奏を行った。彼も兄も生涯独身、天才の直系は絶えた。/9.旧墓石の後方にはベートーヴェン(左)とシューベルト(右)が眠っている。
写真:カジポン・マルコ・残月

カジポン・マルコ・残月 Kajipon Marco Zangetsu

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1967年大阪府生まれ。文芸研究家にして「墓マイラー」の名付け親。ゴッホ、ベートーヴェン、チャップリンほか101ヵ国2,520人に墓参している。信念は「人間は民族や文化が違っても相違点より共通点の方がはるかに多い」。
日本経済新聞、音楽の友、月刊石材などで執筆活動を行う。最新刊は「墓マイラー・カジポンの世界音楽家巡礼記」(音楽之友社)、NHKラジオ深夜便「深夜便ぶんか部 世界偉人伝」にレギュラーゲストとして出演中。次回の放送は年の瀬も押し迫る12月29日(火)の予定。

PMF✕ゲルギエフで観たかった!カジポンさんが教える
「ドン・ジョヴァンニ」のエピソード3選

写真:カジポン・マルコ・残月
1.たった一夜で序曲を書きあげる/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」に関して、モーツァルトの天才ぶりが分かるエピソードが伝わる。全幕を作曲した後、序曲だけが未完成だった。締め切り前夜、モーツァルトは妻におとぎ話をしてもらったり、飲み物を作ってもらったりと徹夜で頑張っていたが、『少しだけ…』と途中で眠ってしまった。あまりの熟睡ぶりに妻は起こしそびれ、目覚めたのは朝の5時。『しまった!眠りすぎた!』『あと2時間しかないわよ!』『何だ2時間もあるのか』。そう言って、7時に訪れた写譜係に楽譜を手渡したという。初演前日の朝の出来事だ。
2.同時代のカサノヴァもヒントに/ドン・ジョヴァンニの名はスペインの伝説上の好色漢ドン・ファンのイタリア語読み。オペラの台本作家ロレンツォ・ダ・ポンテは、親しかったヴェネツィアの色事師カサノヴァ(1725-1798)のイメージを主人公に反映したという。カサノヴァは1,000人の女性と関係を持つが、すべての相手に敬意をもって接したと伝わる。彼の墓は隠棲地のボヘミア(現チェコ・ドゥフツォフ)の教会墓地にあったが、のちに墓地は公園になり、墓石(石板)だけが教会の外壁に残る。
3.「ドン・ジョヴァンニ」誕生の聖地/チェコの首都プラハの西岸には、31歳のモーツァルトが「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた友人の別荘「ベルトラムカ」(最初の所有者ベルトラムスカーに由来)が現存する。僕は2005年に訪問、内部には彼が弾いたピアノやハープシコード、遺髪などが展示されていた。モーツァルトは「ドン・ジョヴァンニ」をプラハのスタヴォフスケー劇場(旧ノスティツ劇場)で自身の指揮により初演したが、何と映画「アマデウス」では、この劇場で「ドン・ジョヴァンニ」公演のロケ撮影を行っている。映画でモーツァルト役の俳優さんが指揮しているのを見て、タイムスリップしたように感じた。
写真:「ドン・ジョヴァンニ」にまつわる場所
1.ドン・ジョヴァンニの人物像に反映されたカサノヴァの墓標(チェコ・ドゥフツォフ)/2.モーツァルトが『ドン・ジョヴァンニ』を書き上げたプラハの友人邸「ベルトラムカ」/3.ここにはモーツァルトが弾いたと言われる白いロココ調ハープシコードがある。/4.何とモーツァルトの遺髪が。彼が実際に生きていたことを実感(ベルトラムカにて)

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Tips/12月29日(火)のNHKラジオ深夜便にカジポンさんが出演します。今回の「深夜便ぶんか部世界偉人伝」は“カップルのお墓”を予定。カジポンさんは語り口も優しい方なんです
よ。生放送で緊張するとは思いますが、噛まずに頑張ってくださいね!
 

おかげさまで今月号から創刊7年目に!
バックナンバーのご案内

“情報の定期便”として2014年11月に創刊したミュージック・パートナー。今月号から7年目に入りました。読者の皆様、ありがとうございます。これからも様々な切り口でPMFの話題をお届けしますので、どうぞよろしくお願いします。
公式ウェブサイトにバックナンバー(2020年8月号から11月号まで)を公開しました。
例えば、カジポンさんのベートーヴェンのエッセイを見逃した方も再読したい方も、ウェブでゆっくりとご覧いただけます。ぜひ、チェックしてみてください!

写真:PMF MUSIC PARTNER(バックナンバー)のキャプチャ
PMF MUSIC PARTNER(バックナンバー)
 
PMF
重要 PMF組織委員会からのお知らせ

4月号で発表したとおり、PMF2020は新型コロナウイルスの影響で開催中止となりました。その後、2021年に音楽祭を再開するための資金として、多くの皆様から個人寄付を賜るとともに、あたたかいメッセージをいただいております。この場をお借りして心から感謝と御礼を申し上げます。

現在、ファンの皆様の応援を力にPMF2021の開催準備を進めております。

例年であれば、PMFオーケストラを率いる指揮者やメインのプログラムを発表する時期ですが、国内外の感染状況等を見ながら調整しているため、進捗が遅れております。全体的なスケジュールが“後ろ倒し”となる可能性が高いことを、他でもないファンの皆様には、このタイミングで率直にお知らせする次第です。

これにともない、フレンズ(賛助会員)のご案内やチケット販売等のスケジュールもずれ込むことになりますが、いつも応援してくださる皆様に喜んでいただけるよう、準備を続けてまいります。

今後の動きは、公式ウェブサイトとミュージック・パートナーでお伝えしますので、ご理解・ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

ご寄付のお願い

2021年の夏、ふたたび“音楽の夏”に!
あたたかいご支援をお待ちしております。

ご寄付は税控除の対象となります。
オフィシャル・サポート/現金・口座振替・郵便振込 オンライン寄付/VISAカード、MASTERカード

ご寄付の額(12/23 現在)

4,689,000

ご寄付の額(12/23 現在)

1,849,000

ご寄付をいただいた皆様に心から御礼を申し上げます。

「寄付金受領証明書」を順次発送中です。
確定申告に間に合うように
2021年1月末までに郵便で送付いたします。

確定申告期間
2021年(令和3年)2月16日〜3月15日

PMF Connects LIVE! コンサート情報/入場無料 要申込/新年も“コネクツ”は続きます。感染予防対策を講じながら、音楽で明るく元気に!ご好評につき、初回となる1月9日のLIVEは受付終了となりました。2回目は札幌交響楽団の団員として活躍するPMF修了生を中心とした弦楽プログラムを予定。金曜の夜、国指定重要文化財でもある洋館の大広間で優美な調べと時間を楽しみませんか。/受付開始 1月8日(金)13:00〜 お申込みは公式ウェブサイトで!/PMF Connects LIVE! 豊平館 日時 2021年1月29日(金)19:00 開演(約60分) 会場 中央区中島公園1-20 札幌市豊平館2階 広間
コンサートスケジュール
 
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